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加藤ひとみさん、小林光恵さん

[写真:加藤ひとみさん、小林光恵さん]

  • 女性40代、50代
  • 株式会社ブライトアイズ 代表取締役、取締役
  • 病名:乳がん、子宮がん

元航空会社のスチュワーデスで子宮がん経験者の姉、小林さんは取締役。元航空会社の営業本部に勤めていた乳がん経験者の妹、加藤さんが代表取締役として平成11年3月に起業した株式会社ブライトアイズ。社名は、2人の名前を組み合わせた“輝く(光)瞳”が由来だ。

小林さん(以下、敬称略):
妹の夫が膵臓がんで他界したのが2年前。私が子宮がんにかかったのがその1年後。そして、またその1年後に妹が乳がんであることがわかりました。それが6年前の話です。それぞれ小学生の子どもが2人いましたので、たとえどちらかが病気で倒れたとしても相手に頼ることができるようにと、私の住んでいる長野県の上田市で妹の手術の後から一緒に暮らし始めました。
加藤:
当初は「命さえ助かれば」と思っていました。でも、術後の精神的・肉体的な苦痛は想像以上に厳しいものでした。不安に押しつぶされそうになったり、失った胸の一部分に強い圧迫感を感じたり…。体を楽な状態に保ちたいと思い、乳がん用といわれるブラジャーやパッドをいろいろ試してみましたが、自分にしっくりくる物は見つかりませんでした。「乳がん用下着」とうたっているにもかかわらず、普通のブラジャーとあまり変わりなく、がっかりしました。それが、姉と一緒にこの会社を設立するきっかけになったのです。

高価な代金を払ったにもかかわらず、普通のブラジャーと違うところは、カップに膨らみをつけるパッドを従来のものよりも多めに入れられるようになっているだけ…。右の乳房を摘出したのに、ホックが右についていて手術の傷に当たる。それも、手術の術式や時期など、とても細かいアンケートに答えたにもかかわらず、である。ほかにもパッドが重すぎて肩が凝るなど、当事者だからこそ気づくことはたくさんあった。

小林:
妹の「左右別々のブラジャーがあったら良いのに」という言葉を聞いて、ないのなら作ってしまおうと思いました。妹にとって着け心地の良い物を作ることは、乳がんの手術をしたほかの方たちにとっても良い物になるだろうと思いました。
加藤:
ブラジャーは切除側と健康な側とを別々に着けられるツーピースにしたことが大きな特徴です。常に身に着けていなくてはならない切除側のブラジャーを快適なものにするために、金具がないかぶり式にすることで、寝る時も着けておけるようにしました。ツーピースにしたことで、片方にはホックを使用せず、傷跡を痛めることがないようにしました。また、ずれ上がりが防げるため、スポーツや腕を上げる動作が気にならなくなりました。素肌になじむような肌の色に近い色で作っているため、病院での検診を受ける際にも着けておけるようになりました。また、ホックがないので、X線撮影やマンモグラフィーなどの検査にも着けたままで受けられます。技師さんは男性が多いので、その目を気にする必要がないことは嬉しいことだと思います。
岩本:
まさに、体験者にしかわからないけれど、どれも大切なことですね。これらのことは、すべて自分で考えたのですか?
加藤:
姉や友人も一緒に考えてくれました。乳がん体験者の友人たちにモニターになってもらって得た意見を基にしています。「体験者は最も優れたカウンセラー」というのが私たちの持論です。同病だからこそ話し合えること、というのがあると感じています。そのような体験をたくさんの人と分かち合いたいと思い、ブライトアイズはホームページを開設し、『BE+プラス』という情報紙を発行しました。
岩本:
肌色だけでなく、レース使いの下着もあるんですね。見ただけでは乳がん用なのかそうでないのか、まったくわからない、とてもおしゃれなものですね。
加藤:
もっといろいろな種類を作りたいのですが、アンダーサイズ・カップサイズ・左右の違うものを作るためには一つの型で約40とおりもの製品を作らなくてはなくてはいけません。そのため、すべてのサイズを用意するには一度に何千枚もオーダーすることになり、色やデザインを増やすことは私たちにとって簡単ではありません。在庫を置く場所の問題もあります。また、非常に耐久性の良い商品で、私は3年前のものをまだ使っています。
私たちの誇れる点は、お問い合わせをいただいた方の約7〜8割の方にご購入していただいており、さらにこの3年間でほとんど返品がないことです。値段も市販の乳がん用下着セットの4分の1程度に抑えています。シリコンのパッドは、高価で夏は暑く、重すぎるといった欠点がありますので、綿の多層のパッドや、重さを自身で調節でき通気性も良いビーズ、ジェルのパッドなどを使っています。
岩本:
これって、普段使う下着にも使われている、胸を大きく見せるためのパッドと同じ材料ですよね? 柔らかくて軽くて、私も使ってみたくなります。
小林:
着け心地を第一に考えて作っていますから、手術をしていない方でも使えますよ。下着特有の締め付け感もないですし、胸は自分の好きな大きさに加工できるし(!)、良いですよ。実は私も着けています。
加藤:
私たちは、より自然なものを作りたいと考えているのです。ほとんどの方が年齢と共にバストが下がってきますが、切除側にシリコンなど形の整ったものを入れるというアンバランスになってしまいます。その点ジェルは重力に逆らいませんから、自然な胸が作れます。若い方には、いくつかジェルを重ねることで思いどおりの形を作ることができます。また、切除の手術ではなく、温存の手術をなさった方でも、乳房の形が変わってしまったことを悩んでいる方もいらっしゃいます。そのような方にもお勧めです。

乳がんの患者数は近年増え続け、2005年には4万6千人の女性が罹患し、女性のがんのトップになるだろうといわれている。一人でも多くの方が術前と変わらない生活が送れるように、商品を通じてサポートしていくこと。それが二人の目標となっている。

小林:
ブラジャー以外にも、「バスタイムカバー」というお風呂に入る時に傷跡を見えないように覆うカバーを作りました。長野県の食品環境衛生課の許可を受け、衛生面でも問題のないことを確認し、全国旅館連盟の承認も受けて、長野県内の温泉施設にはバスタイムカバー(入浴着)のステッカーが貼ってあります。一般の方の乳がんへの認知を促すことと、入浴着の使用者が気遣いなく過ごせるようにするためです。また温泉だけでなく家庭でも、小さいお子さんのいる患者さんは使っています。傷が治りきっていない時は特に、たった1枚の薄い布がとても安心感をもたらすそうです。
岩本:
女性同士でも傷跡を見せたくないという気持ちがある方もいるのは当然ですよね。そのような方には朗報です。また、そのポスターを見て会社に連絡をしてくる方も増えるでしょうし、一石二鳥ですね。
加藤:
何よりも嬉しかったのは、そのポスターを見て「温泉にポスターがあるぐらいだから、乳がんって結構多いんだ」と思い、集団検診を受けてくださった方がいたこと。また、私たちの活動をきっかけに、二の足を踏んでいた検診に足を向けてくださった方がいたことです。早期発見など啓発活動のお手伝いができれば言うことはありません。
小林:
少し前にストーマを持っている男性が数名会社にいらして、「自分たちも温泉に入る時にストーマのところが気になる。隠すようなカバーをぜひ作ってほしい」とか、看護師の方から、「乳がん以外の手術の方でも大きな傷を持っている方はたくさんいる。その方たちのために傷を隠すカバーを作ってほしい」などの要望もありました。
岩本:
どの方が言っていることももっともなことですよね。今までそのような商品がなかったことの方が不思議な気がします。

乳房というメンタルな部分にかかわるがんを体験したことで、術後に家族関係や夫婦関係が壊れてしまうことも多いといわれる。大病をした自分を大切にすることを思い起こさせ、外に出る勇気を与えてくれるこの下着の存在は、ただの商品の枠を超えた役割を担うのではないか。お二人の話からそのようなことを思った。

小林:
ビジネスとしてやっていくのはまだまだ大変です。でも何よりも嬉しいのは、別々の道を歩んでいた姉妹が、一緒に歩き出せたことです。お互いを支え合い、生きていくことができるのは素晴らしいことです。
加藤:
この仕事を始めたことで、たくさんの素敵な人たちと出会うことができました。もちろん、子どもたちを育てるための手段としての仕事でもありましたが、それ以上のものをこの仕事は私たちに与えてくれたと思っています。これからも、術後の心身の不快さを少しでも軽くできるものを、皆さんのご意見や悩みをお聞きしながら考えていきたいと思っています。病気をする前とできるだけ変わらない生活を送りたいというのが私たち患者の願いだからです。

姉妹が助け合って自分たちの夢に向かって進んでいく。それは病気をする前も、そして病気をした後も同じこと。ただ少しその目標が病気をする前とは違い、姉妹の距離が縮まった。病気をバネに新しく自分の居場所を見つける強さを持ったお二人は、新しい物を作り出す喜びと力強さに溢れていた。

株式会社 ブライトアイズ

エレガンスブラ&ショーツ,
バスタイムカバー
[エレガンスブラ&ショーツ,バスタイムカバー]

乳がん用下着、バスタイムカバーなど商品については、ホームページ上よりお買い求めになれます。
エレガンスブラ&ショーツ・15,000円(税別)、バスタイムカバー・3,800円(税別)です。